カン・ウソク監督“シルミド”

カン・ウソク監督“シルミド”重い映画を観たい気分で“シルミド”を借りてみた。

掛け値なしに重かった。

この話、事件自体は実話だという。ただし、登場人物の設定は完全にフィクションで、そのフィクション部分がこの映画の色をかなりの割で決めているように思う。彼の国に理解の薄いぼくなんかが見ると、ノンフィクション部分までフィクションに見えるくらい無茶な内容だ。

この程度のことはいつでも起こりうると知るのは無駄なことではない。

ただ、史実としてあった事件と、創作である人物描写をある程度分けて考えないと、妙な誤解を生みそうな映画ではある。ヒーローは一人も出てこないし、美化されるべき事実の一つもない。それは肝に銘じなければならないと思う。

それにしても役者が濃い。

特殊部隊と言えば、冷徹で、感情を表に出さず、任務遂行のためには手段を選ばないというのが一種のステレオタイプだと思う。けれども、この映画で描かれる 684部隊は違う。洗練とは程遠い。誰もが恐ろしく感情過多で、訓練前も訓練後もそれは殆ど変わらない。過酷な状況に心を閉ざさないという意味では驚異的な精神力の持ち主たちと言えるかもしれない。

そんな人間味溢れ過ぎのキャラクターたちを演じる役者陣が本当に素晴らしい。正直魅力的な人間なんて一人も出てこないのだけれど、生々しい感情の発露をみごとに写し撮っているという点で異論を差し挟む余地はない。お陰で色んなところで感情移入できてしまうのがノンフィクションとしては最大の欠点かもしれない。

どこの世にも蓋をしたい臭いものはあると思う。ただ隣国の話と思っていては、いつ足元を掬われるかわかったものじゃない。教訓めいたものを映画や小説に見出すことが必ずしも正しいとは思わないけれど、たまにそんなことを考えてみるのも悪くはない。この映画を観て何も考えずにいることは難しい。

演出の良し悪しを超えて、見る価値のある映画だと思う。

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