トレイ・パーカー監督“チーム★アメリカ ワールドポリス”
トレイ・パーカー監督“チーム★アメリカ ワールドポリス”を観た。
もの好きのためだけの映画である。そもそも“サウスパーク”ミーツ“サンダーバード”でマトモな作品を期待する方がおかしい。国際救助隊ならぬ国際警察が頼まれもしないのに世界中でテロと戦い、ついでに観光資源を破壊しまくるという幕開けからもそれは想像がつく。
それにしても、こういう馬鹿げたものに極めて高い技術と優れた才能が惜しみなく注がれるところが、アメリカという若い文化の素敵なところである。大量の操り人形も、人形大のミニチュアセットも、撮影も編集も一片の妥協すら感じられない。驚異のクオリティである。
この話、一見世界警察気取りのアメリカ自体をおちょくった内容に見える。事実そういう側面はあるのだけれど、それよりも突出しているのはハリウッド映画業界に対する痛烈な批判だ。代表して槍玉に挙げられているのは、かのジェリー・ブラッカイマーである。
よって、この人形劇は基本的にジェリー・ブラッカイマー製作、マイケル・ベイ監督のようなストーリーと演出で撮られている。その徹底ぶりはむしろ好きなんじゃないかと思うほどで、音楽の使い方など、まさしく!と膝を打ちたくなるようなできである。
当然、人形を使って単に彼らのやり方をなぞっているわけではない。身も蓋もない演出の意図を、アカラサマな形で暴露してしまう。お陰で大作にありがちな感動シーンが、いかに脚本の力ではなく、派手な演出だけで作り上げられているかが分かってしまう。
たとえば、不幸にも愛する人を失った女が主人公と出会い、その苦悩を分かち合う内に惹かれ合う。これを2時間そこそこのアクション映画だと前半くらいで済ませてしまう必要がある。どうしたって、ふたりが出会ってからセックスに到るまでの性急さは否めない。
「約束してくれるなら、ここでセックスしてもいいわ!」
「ぼくは死にません!」
こうして、人形同士のめくるめくファックシーンが展開されるのだけれど、その可笑しさは見てみなきゃ決して分からない。年齢制限がかけられるのも已む無しといった、派手な痴態が繰り広げられている。嫌いな人なら眉間の皺が深くなること請け合いだ。
それから、主人公が自分の不甲斐なさに凹み倒すという定番シーン。これがまた実に直接的で、彼の心情を歌ったBGMが揮っている。今の自分はとことん最低だけど、“パール・ハーバー”はそんな自分よりも最低だ…という内容の歌が切々と歌われるのである。
ちなみに、その後、彼が立ち直るシーンではモンタージュという手法について解説した歌が流れる。どんな困難も短期間で乗り越えられる、“ロッキー”だって使っていたモンタージュ…とかなんとか、独り部屋で見ていたにも関わらず、笑いをこらえることができなかった。
この監督は俳優嫌いも徹底している。
映画の中で、売れっ子俳優たちが組織している俳優協会は、金正日の破壊活動の片棒を担がされそうになる。もちろん、すんでのところでチーム・アメリカが乗り込んでいくわけだけれども、俳優たちの発言、行動の馬鹿馬鹿しさはまるで容赦がない。
しかも、チーム・アメリカは彼らを皆殺しにしてしまうのである。人形劇にも関わらず血は噴出すし、内臓は飛び散るし、千切れた手足の切り口は妙に生々しい。頭を吹き飛ばされたり、巨大黒豹(実際は猫)に食い殺されたりろくな死に方をしない。
とまあ、全体的に見ても細部を見ても本当にロクでもない映画である。けれども、この監督がこうまで徹底して今のハリウッドのありようを貶し尽くすのは、やっぱり映画が好きだからなんだろう。でなきゃ、ここまでよくできたパロディは作れない。
どんなに露悪的でも厭な気持ちにならない所以だろうか。
posted in 06.11.26 Sun
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