マイケル・ベイ監督“トランスフォーマー”

マイケル・ベイ監督“トランスフォーマー”を観た。

そもそもの玩具を知らない。いや、名前だけは知っているけれど、現物を触った記憶はおろか見た記憶すらない。当然のように派生したアニメも漫画もまったく知らない。唯一、以前何かの雑誌で紹介されていた、画面がトランスフォームしまくる海外版Transformersのウェブサイトを面白がって見た記憶がある。まあ、要するに何も知らなかったわけである。

まず前提としてあのロボットたちが地球外生命体だったことに驚いた。人工物だと思っていたのである。バルキリーがファイター(戦闘機)からバトロイド(人型ロボット)に変形するように、コンボイは普段トラックで戦闘時にはロボに変形するんだろうと思い込んでいた。ところが、やつらは変形ロボなんかじゃなく実はエイリアンだったのである。

その上、彼らは地球人よりもハイソでハイテクである。そもそも精神の乗り物としての肉体に性能差があり過ぎる。生身で宇宙を航行できるばかりか、そのまま大気圏まで突破してしまう。かと思えば、地球上のメカやらなんやらを瞬時にスキャンして擬態までする。車にヘリに戦闘機、ラジカセやケータイにだってなれる。これ即ちトランスフォームである。

ぼくはそんな基本的なことすら知らなかった。

にもかかわらずこの映画を観にいったのは、だから、単なるノリというか気分であって、特に興味を持って臨んだわけではない。スピルバーグがわざわざマイケル・ベイに撮らせたSFアクションがどんなものか。ネタとして観ておくのも悪くなかろう。その程度の気持ちである。それで2時間半。調べずに行ったものだから、知ってちょっと引いてしまった。

ところが蓋を開けてみると、これがまったく退屈しなかった。なにしろ監督が監督である。当然のように全篇が見せ場の連続、息もつかせぬ超ド級アクションのミラクルコンボというウンザリするような内容である。普通ならこれで2時間半は耐えられない。実際ぼくには、同監督の“アルマゲドン”で何度も舟を漕いだ実績がある。そのぼくが最後まで観遂せた。

ひとつにはえらくリアルな戦闘描写に心躍らされたことを認めないわけにはいかない。相当に米軍の協力を得ているのだろう。ヘリだ戦車だ戦闘機だととにかく兵器という兵器が本物くさい。それだけで戦闘シーンの緊迫感が違う。トランスフォーマーたちはむろんフルCGなんだろうけれど、それ以外にいかにもCGらしいCGなんてものはほとんど出てこない。

そのリアルな兵器たちがゴテゴテと変身する様がこれまた圧巻。映画前半ではこの変身シーンをかなりきっちりと見せてくる。ただし変形玩具が元のくせに、あれではまず玩具にならない。同時に数万パーツがガチャガチャと動いて変形するのである。たとえ再現可能な設計になっていたのだとしても、そんな複雑怪奇なる玩具で遊べる子供はいない。

それはそれとして、何よりも巧いのは実はガスの抜き方である。

とにかく笑える。正義、友情、勝利…みたいなものを真面目な顔でやられるとこれは結構辛い。その点、この映画は愉快である。滑稽さと胡散臭さがいたるところにちりばめられている。セクター7なる秘密組織が出てきたり、いわゆるオーバーテクノロジーネタが出てきたり、矢追純一的というか学研ムー的なところにも思わずニヤリとさせられる。

そもそも主人公の高校生がショボイ。完全にコメディ路線である。いかにもB級青春映画にありがちな冴えないキャラで、超セクシーなクラスのアイドルに憧れていたりする。その彼女がこれまたありがちな筋肉バカと付き合っていたりするのである。その後の展開もこれ以上ないくらいにステレオタイプ、およそ予想を裏切るということがない。

実はこのステレオタイプが味噌なのである。このあまりにありがちな日常性が、突飛な非日常を受け止めるクッションになっている。本来はトランスフォーマーたちこそが主役のはずである。けれども、それじゃあ一般の大人が素直に楽しめる映画にはなり得ない。冴えない高校生を主役にし、ありがちな青春を描いてみせたマイケル・ベイの手柄は大きい。

ただ、そのせいで子供が観るには少々辛い内容になっている。ヒロインがセクシーすぎるとかいう話ではない。地球人サイドの話は分かり易すぎるくらい分かり易いのに、トランスフォーマーサイドの話がどうにも伝わり難い。善と悪が強大な力を奪い合うという構図は極めて単純なのだけれど、ほとんど台詞のみで語られる背景説明が頭に入り難いのである。

だからというわけでもないのだろうけれど、ぼくが観た回の観客に子連れの人はまったく見あたらなかった。もちろん、流行の山が80年代だったことも観客の年齢層に影響を与えているのだろうと思う。その意味では、元々いい大人をターゲットに作られた映画なのかもしれない。だとすれば、やっぱりマイケル・ベイの起用は正解だったといえそうだ。

いやはや、実にアッケラカンと面白い娯楽大作だった。

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