ピート・トラヴィス監督“バンテージ・ポイント”

渋いキャストと予告が気になって“バンテージ・ポイント”を観に行ってきた。

まるで予想外だった。先入観は完全にひっくり返された。そして、面白かった。予告編は大嘘とまではいわないまでも、相当に的を外している。あれでは「藪の中」的なものを期待する。けれども、実際には「木更津キャッツアイ」である。8つの視点から見た大統領暗殺は完全に相互補完的で、決して矛盾しない。だから、観客は推理する必要も暇もない。衆人環視のテロの様子が繰り返し巻き戻され、視点を変えて補完されていくのである。これが終始ハイテンションかつハイテンポで息吐く暇もない。演出の印象でいうならサスペンスというよりアクションだ。

何度も同じ時間に引き戻される。舞台も変わらない。これは相当にうまくならなきゃダレる。この辺りは流石に巧い。1回目の視点はテレビである。放送局内からモニター越しに見たテロの一部始終が適度な緊張感をもって映し出される。壇上の大統領が撃たれ、さらに、付近で爆発が起こる。そして、映像が一気に巻き戻る。ここまでの視点が、作中最も外側からの視点となる。ここから先、視点は現場に移り、大統領サイドとテロリストサイドの中枢へと肉薄していく。シークレットサービスら使うの符牒「わし」の意味が明らかになるところが最大の転換点だろう。

とにかく、見せ方の巧さと無駄を排した明快なストーリーテリングで一気に見せる。気になる部分にクローズアップしたときは、大抵次の視点でちゃんと答えを見せてくれる。怪しげなキャラクターたちの素性も、次から次へと惜しみなく明かされていく。分かりやすい。これだけの話を分かりやすく90分程度にまとめた手腕は認めざるを得ない。ただし、枝葉を極限まで廃したストーリーに深みはない。キャラクター描写が薄い。その意味では酷くハリウッド的といえる。ただ、俳優らの好演のお陰だろう、それぞれのバックグラウンドがうっすらと透けて見える。

この映画、ミステリ的な謎解きや社会派なストーリーを期待すると、残念ながらきれいに裏切られる。不満が出るとすればここだろう。何しろ、解決は怒涛のカーアクションと、些かご都合主義的な偶然によってなされる。とはいえ、このカーチェイスは見ものだ。CGを使ったのかもしれないけれど、とにかくスペインの街中を縦横に激走する様は一見の価値がある。なんという不死身っぷり!ダイハードも真っ青である。ご都合主義の内容はあまりにネタバレすぎるのでちょっとここには書けない。ただ、テロリストを単なる悪役にしないという点で評価はしておく。

それにしても最後まで明かされないテロの目的が気になって仕方がない。

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comment - コメント

いやぁ~、素晴らしいレビューです。
感心してしまいました。
ぼくの云いたいことを、ホント見事に語ってくれています。
ありがとうございました。

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