三池崇史監督“スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ”

三池崇史監督“スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ”を観た。

このタイトルで「ああ、“続・荒野の用心棒”ね」と思ったなら観ない手はない。僻村で対立する2勢力と娼婦、混血児、そして棺。これらの意味を知っていて観ないというのはいかにももったいない。ぼくなどそれほど思い入れはなかったのだけれど、あの主題歌‘さすらいのジャンゴ’を北島三郎に歌わせるなど、マカロニ好きなら楽しめること請け合いである。

ただし、これはいわゆるリメイクではない。内容は完全にオリジナルである。スキヤキ・ウエスタンを冠するのもそのためだろう。決してマカロニ・ウエスタンの焼き直しではない。それなのにどうしてタイトルがジャンゴなのか。それをここで説明するのは野暮というものである。ラストでずっこけるのもまたこの映画の正しい楽しみ方だとぼくなんかは思う。

それにしても、タランティーノ×ロドリゲスのグラインドハウスは実は3部作だったと勘違いしてしまうようなB級テイスト満開の過去作リスペクト映画である。タランティーノが役者として出演しているのもそうした印象を強める要因のひとつだろう。作風としては、B級テイストをCG使用も厭わず超A級に作り込んでいる点でロドリゲス寄りといえるかもしれない。

三池崇史といえば古今稀に見る多作監督である。年に4、5本は撮ってるんじゃないかと思う。容赦ない暴力描写に定評があり、不条理な展開の作品も少なくない。その意味で本来はマニア向けの監督というのが個人的な印象だ。ところが1998年米『TIME』誌上で活躍が期待される監督に選出されるなど海外での評価が影響したのか国内でもメジャー作品を撮るようになる。

そんな中、一部の物好きの間からちょっとしたブームになったのが1999年公開の“DEAD OR ALIVE ~犯罪者~”である。これはストーリーがどうのという作品ではない。Vシネの雄たる竹内力と哀川翔を戦わせることだけを主眼に置いたバイオレンス・アクションで、茫然自失するよりないラストを見て笑うか怒るかは観る側の感性しだいという完全にキレた作品である。

“着信アリ”“ゼブラーマン”“妖怪大戦争”などメジャー作品だけとってもジャンルレスな活躍ぶりだけれど、今回の“スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ”“DEAD OR ALIVE ~犯罪者~”に近いノリの作品だと思う。常識や分別なんて言葉とは無縁である。独特のコメディタッチで描かれてはいるものの、エログロ描写は決してカップル映画たり得ないクオリティだ。

そんな馬鹿映画なのに、一方では実に豪華な造作の映画でもある。

舞台となる「根畑(ネバダ)」なる辺境の村は、時代や国を超越した時空に存在している。数百年越しの源平合戦という設定で西部劇をやろうというのだから、ありきたりな時代劇の風景が許されるはずもない。この時代劇であり西部劇でもあり得る僻村のオープンセットがとてもいい。砂塵舞う寒村が絵になっている。スキヤキ・ウエスタンを画で語っている。

むろん役者陣も豪華だ。佐藤浩市の馬鹿で残虐で往生際の悪いキャラなど、なかなか見られるものではない。安藤政信は人相が代わるほどの奇怪なメイクで汚い悪役を嬉々として演じているし、“ロード・オブ・ザ・リング”へのオマージュかと思うような香川照之の多重人格キャラもユニークだ。人気若手俳優の小栗旬などは出てきたと思ったら殺されてしまう。

もちろん、その嫁役の木村佳乃だって大変なことになっている。

桃井かおりはやっぱり桃井かおりで、かつ恰好良い。佐藤浩市や安藤政信の意外性とは反対に、いかにもらしい役どころである。あれだけドロドログチャグチャの泥仕合を描きながら、桃井かおりの顔だけは決して汚れない。タランティーノとの絡みで見せるコメディエンヌぶりも凄い。おそらく50は超えているだろうに、あれができるというのは賞賛に値する。

そして、ウエスタンであるからにはクライマックスの銃撃戦がつまらなくては仕方がない。ラストの一騎打ちに到るまでの殲滅戦は、三池崇史のアクションセンスが遺憾なく発揮されている。これが意外にも真面目にウエスタンしている。突如超能力が炸裂したり、未来兵器が飛び出したりはしない。オープンセットを縦横に駆使したガンアクションが展開する。

雌雄を決する伊藤英明と伊勢谷友介の戦いも好い。拳銃対日本刀という漫画のような対決ながら、これが滅法恰好良い。荒唐無稽さと様式美がうまくひとつになっている。そういえば、何故か決戦を前に雪が降り積もる時代劇風の演出は“キル・ビル”でも使われていた。面白さのためなら整合性など取るに足りないという映画作法をぼくは諸手を上げて支持する。

ちなみに、マカロニ・ウエスタンというイタリア製西部劇の呼称は、映画評論家の故淀川長治がつけたものらしい。Wikipediaのマカロニ・ウェスタンの項を見ると、欧米ではスパゲッティ・ウエスタンと呼ぶのが通例のようだ。イタリアはスパゲッティ。日本ならスキヤキ。なるほど、欧米人がどの程度スキヤキを食物と認識しているかは知らないけれど、分かりやすい。

希代のポップシンガー坂本九はやはり偉大である。

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comment - コメント

りりこさん、台湾旅行はいかがでしょうか?
昨日早速見てきました、「ジャンゴ」!!!
随所に笑いネタが仕込んであって純粋に楽しめましたよ~♪

なんといっても桃井かおりがかっこいい!
そしてこれでもかと容赦なくぶっ放す銃撃戦がまたよろし♪
しかし一番楽しみにしていて、予想以上によかったのは北島三郎の歌う主題歌ですね。あれだけでも一見(一聴?)の価値アリです。
ケーブルで「海猿」みたばかりだったので伊藤英明の寡黙な表情が意外でしたが、仙崎のように泣いて叫ぶ用心棒じゃシャレになりませんものね。惚れ直しました!
それにしてもこの監督は多作ですよね。
来月は「クローズ」見に行きます。
(あのロケ地、かつてのわが母校なんですよ…)

ともちんさん、いらっしゃいませ。

ぼくがこれを観に行ったときは隣が若いカップルで、なんかちょっとヒいてる感が漂ってました。特に木村佳乃が出てくるシーンは…。それに、そもそもあの歳だとマカロニ・ウエスタンを知らないんじゃないでしょうかね。だとすると、サブちゃんの歌も効果は半減でしょう。
『海猿』はまったく食指が動かず未見です。伊藤英明は正直あまりカッコイイ印象のある俳優じゃなかったので、今回の役が意外にハマっていて驚きました。
そうそう、台湾はいろんな意味で興味深かったです。2回に分けて記事にしようと思ってまだ1回分しか書いてません。最近、書きなぐり速度が落ちてまして…。

一番印象深かったのは、タランティーノが「わしの息子(小栗旬)はアキラという。私は昔ディープなアニメオタクだったのだ」とか何とかいうシーンですね。外人も結構笑っていたような。・・・ラストの北島三郎にかぶる、ジャンゴの行く末には抱腹絶倒しました。いい加減もここに極まれり。まぁ知的つか、才気あふるる映画ですよね。

> faye2071さん
アキラはやっぱり日本でもオタク的な作品なんですかね。アメリカあたりじゃ、あんな日本のアニメを知ってるだけで十分オタクな気もしますが。三池崇史作品はついつい観てしまう何かがありましね。なんじゃこりゃあ…ってデキの映画もあるんですが、なんだかそれもありな気がしてしまう稀有な監督です(ぼくにとっては)。

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